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WAOJEであったいい話 第1話「WAOJEでの縁で生まれた日本酒の輸出プロジェクトが誕生するまで」《前篇》

WAOJEであったいい話 第1話
WAOJEでの縁で生まれた日本酒の輸出プロジェクトが誕生するまで
~起業家に必要なのはバイタリティとご縁、そしてノリ!?~
≪前篇≫

こんにちは、WAOJE.NET編集部です。今回から「WAOJEであったいい話」というテーマで、WAOJEの会員同士の交流で生まれた新たなビジネスや試みについてご紹介してきます。

第1回目は、インド バンガロール支部支部長の柴田 洋佐さんと、京都支部の西村 和真さん、同じく京都支部の塩野 忠人さんにお集まりいただき、新たに生まれた日本酒の輸出プロジェクト「Liquor Japan」がどのような経緯で生まれたのかをインタビューさせていただきました。

コロナ禍で生まれたLiquor Japanプロジェクトの誕生秘話、そして柴田さんがインドでビジネスをはじめるきっかけや、WAOJEインドチーム(バンガロール支部・デリー支部)の試みについてたっぷりとお話を伺いましたので、ぜひ最後までご覧ください。

WAOJE(World Association of Overseas Japanese Entrepreneurs)は、海外を拠点に活躍する日本人起業家のネットワークです。

<出席者 略歴>

出席者のプロフィール詳細はこちら

柴田 洋佐

柴田 洋佐
WAOJEバンガロール支部 支部長

インドビジネス歴9年。
インド企業延3,000社の在印日本人コミュニティ向けのプロモーションを担当。
デリー、ムンバイ、バンガロール、チェンナイにてインド企業とのネットワークを有する。
またインド人向け訪日旅行やインド人エンジニアの日本企業への紹介を通じて、日本に興味のあるインド企業やインド人とのネットワークを構築。
日印の架け橋になるべく、日本とインドを行き来している。

西村 和真

西村 和真
WAOJE京都支部所属

他支部と連携交流を目的とするインパクト分科会委員

経営コンサルタントとして、会計・法律及びマーケティングを軸に25年間多くの国内企業に関わる。
主に観光産業、製造業及び不動産業に強みを持ち、海外からの訪日客のツアー手配や国内観光コンテンツの造成を行う。

塩野 忠人

塩野 忠人
WAOJE 京都支部所属

医療・医薬品・サプリメントなど高機能製品容器の製造販売、製造工程の受託からサプリメントの原料調達、品質管理、物流における梱包、さらには建築資材に至るまでてがける。
また、アメリカのカリフォルニアのグループ会社で世界中のメーカーからサプリメントの原料を輸入して、サプリメントのOEMメーカーに販売している。

 

■Liquor Japan プロジェクトをはじめるきかっけ

WAOJE.NET編集部(以下、WAOJE本日は、お忙しいところをありがとうございます。早速ですが、Liquor Japan プロジェクトをはじめるきっかけについて教えていただけますか。

柴田 洋佐さん(以下、柴田)元々はコロナ禍になる前に、西村さんをはじめWAOJE京都支部の方々とインド人の訪日旅行についてご相談をさせていただいていたのです。京都は訪日旅行の重要な拠点のひとつですから、インド人向けの京都観光のお話をしておりましたが、コロナの影響で人が移動することは難しくなってしまいました。

しかし、「人は動けないけど、モノは動くことはできるんじゃないか」と考えまして、将来的なインバウンドにつながることも踏まえ、アウトバウンド、つまり日本のプロダクトをインドに紹介することができないだろうかと京都支部の方々に相談をしたのです。

そのような状況で、塩野さんの繋がりがある京都の伏見の蔵元さんとご縁をいただき、蔵元さんのインド進出をするためにLiquor Japanプロジェクトをスタートさせました。Liquor Japanでは日本酒だけではなく、今後は日本のお酒全般をインド以外にも進出できるようにしたいと考えております。

西村 和真さん(以下、西村)Liquor Japanとしては、塩野さんの会社が商社機能をもってらっしゃいまして、そちらでお酒の輸出の免許をお持ちでしたのでご協力いただき、柴田さん、塩野さん、私の三者で日本酒の輸出があまりできていない国の市場をとりにいこうということで動いております。

塩野 忠人さん(以下、塩野)元々、私の会社で2019年から新規事業としてお酒を輸出することを計画しておりまして、2020年7月にサンフランシスコで開催されるお酒の展示会に出展する予定だったんです。そこでグループ会社が日本のお酒の輸出入のライセンスをすでにとっていたんですね。でもコロナ禍でその計画がすべて吹き飛んでしまいまして。

ちょうどそのときに西村さんと柴田さんから今回のプロジェクトのお話を聞き、ライセンスもあるし私も一緒にやらせてくださいということでプロジェクトに参加させていただきました。

WAOJEなるほど。そこで、塩野さんのお知り合いの蔵元さんをご紹介されたということですか?

塩野どこの日本酒をインド進出に向けて取り扱おうかと話をしていたときに、西村さんが「この蔵元はどうですか?」と選んだ蔵元の社長が、たまたま私が親しくさせていただいていた人だったんですよ。

WAOJEすごいご縁ですね。

塩野本当に偶然が偶然を呼んだような感じです。弊社がお酒の輸出ビジネスを計画していなかったらライセンスもとっていないし、Liquor Japanプロジェクトにも参画してなかったと思います。

WAOJEそのライセンスを取得するのは難しいのですか?

塩野そうですね。まず、蔵元さんの協力を得ないとできないというハードルがあり、売り手の協力も得ないとできないので、何もコネクションがないと結構ハードルが高いです。

WAOJEでは、塩野さんの会社がライセンスをお持ちでなければ、Liquor Japanプロジェクトも今のようにスムーズに話が進んでなかったかもしれませんね。

西村おっしゃる通りです。ご縁が繋がって、実現できたプロジェクトだと思います。

 

■Liquor Japan プロジェクトについて

WAOJELiquor Japanプロジェクトで、柴田さんはインド担当ということですが、現在のインドではどのくらい日本酒が流通しているのでしょうか?

柴田2019年の日本酒の海外輸出が年間240億円くらいです。主な輸出先は中国、アメリカ、ヨーロッパになります。その240億円のうちインドへは1200万円なんですよ。つまり「ないに等しい」くらいです。先んじてインド自体のアルコール市場の伸びは倍々ゲームのような感じで伸びています。

WAOJEインドでは日本のお酒はほとんど流通していないということですね。

柴田はい。日本からのお酒は、エアポケットのように空いている状況です。少なくとも4兆円というインドのアルコール市場の中で、たった1200万円しかない現状なので、ちゃんとやれば一定のところにはいくだろうと考えています。

WAOJEなるほど、日本のお酒の「伸びしろ」はかなり多そうですね。日本のお酒の流通量が少ないインドの現況では、「日本酒」自体の認知度も低いということでしょうか。

柴田そうですね。インドにおいて、日本酒の認知はほぼない状態と言っていいと思います。そのため、まずはインポーターやディストリビューターに日本酒の存在を知ってもらわないとはじまらない。彼らが日本酒に興味関心をもってくれないと、お客様の元に届かない状況なので、インポーター、ディストリビューターに「日本酒とはなんぞや」ということを知ってもらうため、Liquor JapanというWebサイトを昨年立ち上げました。


https://liquorjapan.com/

柴田このLiquor JapanのWebサイトを活用しながらインポーター、ディストリビューターというパートナーを見つける活動の際に説明をしてきました。

結構な数のインド側のインポーター、ディストリビューターとミーティングをしまして、ようやく1社、パートナーになり得るインポーターの選定が終わったところです。さあ、これからというところなんですが、ご存じの通りインドもコロナの波が非常に大きくて、ちょうど2021年の3月~5月にコロナの第二波がきて、非常に厳しい状況が続いています。

今はだいぶ落ち着いてきて、デリーなどは6月初旬にロックダウンが解除されたので、今月(6月)、インポーターとのオンライン商談ができるかなという状況です。

WAOJEコロナ禍で思うように活動できないとは思いますが、他にLiquor Japanとしてどのようなことをされたのでしょうか?

柴田今年の3月21日、デリーにある日本国大使館のお庭を使って試飲会をさせていただきました。これは2017年から大使館が開催している「日本酒の夕べ」というイベントがありまして、本来であれば毎年10~15の蔵元さんに来ていただき、日本酒のPRイベントを大使館主導でしてきたのですが、2020年はコロナの影響でイベントができなくなりました。

我々も昨年の夏ぐらいから大使館とお酒のプロジェクトで情報交換をしておりましたので、今年は何とか実現する方法を模索しているなかで、我々の会社がお酒のブースを出して試飲会をさせていただきました。

「日本酒の夕べ」の様子

その中で、Liquor Japanのプロジェクトとは別に鳥取県の事業も弊社がお酒のプロジェクトを受けておりましたので、そこと一緒になって京都のお酒と鳥取のお酒を全部で20銘柄くらいを試飲いただきました。

コロナ禍で各ブースに大使館員がついて回り、「10分~15分しかブースにいちゃいけません」みたいな制約もありましたので、飲んでいただいて簡単なアンケートに答えていただく程度のことしかできなかったのですが、小さいながらもコロナ禍でも何とか大使館にも調整していただきながら実現できました。

 

■インドにおける日本のプレゼンスは高くない

WAOJEインドの日本食レストランはどのくらいのあるのでしょうか?

柴田正確な数字を把握してはいないのですが、たとえばミャンマーにある日本食レストランの数の方が、インド全土の日本食レストランより多いと思います。それぐらい少ないです。

WAOJEということは、日本酒だけでなく、日本食に対する認知度も少ないということでしょうか?

柴田そうですね。食に限らず、「日本」自体にプレゼンスは高くないですね。企業の進出に関しても中国とよく比較されますけど、中国に進出している日本企業は3万社ちょっとあるという話を聞きますが、インドに進出している日本企業はコロナ前でようやく1500社くらいです。コロナでインド市場から撤退を決めた日系企業の話も耳にしますので、なかなか難しい市場なんだと思います。

コロナ禍でもココ壱番屋のカレーが進出し、セブンイレブンさんもようやく1号店がオープンするという話も聞いています。それだけ、やはり日本企業、日本のプレゼンスは低いかなと感じますね。

WAOJEインドにおいて、お酒の関税はどのくらいなんでしょうか?

柴田インドの場合、まずインドの中央政府が150%の関税をかけます。

WAOJEそこで2.5倍になるということですね。

柴田おっしゃる通りです。まず、輸入の時点で2.5倍になり、そのあと、州ごとに酒税が異なります。アメリカもそうなのですが、州によって銘柄を販売するためのラベルを登録する必要があるです。その登録料というのが州ごとに違いまして、非常にややこしいですよね。

ですので、インド進出と申しましても、デリーでやるのとムンバイでやるのとバンガロールでやるのとでは、全然販売価格が変わってくるんですよ。

また、ライセンスについても、インポートするライセンス、ディストリビュートするライセンス、販売するライセンスの3つが必要になります。

これが州ごとのライセンスなので、デリーでライセンスを持っているからといって、ムンバイで販売できるわけではないということなんです。

インドの場合は、州政府が一括して管轄している州もありまして、そうなってくると官僚に対して便宜を図ることが物を言ってくるという、ビジネスじゃないような状況になることになってきましてね…。

WAOJE外から見ていると、インド全体として見ていますが、州ごとでまったく違うのですね。

柴田そうです。インドは州がひとつの国のようになっています。ラベル登録料のほかに、酒税も州ごとに全部違います。ですので、インド国内全土でお酒を売るっていうのは、非常に大きな資本力がある会社でしかできないです。インド国内でもそのようなメーカーは2、3社くらいです。

WAOJEなるほど、詳しく教えていただきありがとうございます。これは本当にアライアンスの組みがいがあるというか、一緒に協力してやらないと実現できないプロジェクトですね。

柴田おっしゃる通り、私もやりながら本当にそう思います。私の元のビジネスもインドではデリー、ムンバイ、バンガロール、チェンナイという主要な4都市で行っていたので、それ以外の州を攻めようとなるとコネクションもなく、ほとんどゼロから作っていかないといけないので非常にハードルが高いです。

WAOJEWAOJEで柴田さんが行動することでバトンが繋がり、様々なご縁でプロジェクトが生まれ、インドにしっかり腰を据えてビジネスをしている人がいないと実現できない素敵なアライアンスだなと思います。

柴田ありがとうございます。本当にWAOJEでのご縁のおかげで実現できたプロジェクトです。

 

■どのようにインド人に日本酒のよさを伝えていくのか?

WAOJEここまでLiquor Japanでやってこられたことについてお話いただきましたが、この先どうやって日本酒を売っていくのかという部分について伺います。そもそものところで、インド人はどのようなお酒を飲んでいるのでしょうか? インドで日本酒があいそうな料理をパッと思いつかないのですが、インド人に日本酒のよさをどのように伝えていくのか、マーケティングの側面からお話を伺わせていただけますか?

柴田最初のご質問についてですが、インド人の9割がビールとウイスキーを飲んでいますね。インドはイギリスが宗主国でしたので、その影響がすごくあってウイスキーが人気です。ここ5年くらいはワインも人気になってきています。ワインのマーケットの規模としては6年間で17倍くらい成長しています。

二つ目のご質問、マーケティングについては色々とプランはありますが、みなさんにぜひお知恵を拝借したいところです(笑)。

お酒と食事をペアリングすることでいうと、ヨーロッパと違って元々インドでは食事とお酒をペアリングする文化ではないんですね。食べることとお酒を飲むことは分けて楽しむ人たちなんですよ。とはいっても、食後にウイスキーを飲んでいる人に、どうやったら日本酒を飲んでもらえるのかを考えないといけません。

そのために試飲会をやるなどトライしています。年齢層によって世代のギャップもありますし。たとえば50代だとかなりコンサバティブになってくるので、どの世代をターゲットにするのかの議論もしています。

ただ、インドの魅力としてはやはり数がいますので、かなり小さなセグメントに売れたとしてもインパクトはあります。

我々はマハラシュトラ州というムンバイがある州に対してマーケティングをしようと決めたので、逆にそれ以外の州は一旦無視することにしました。マハラシュトラ州のムンバイは海に面しており、シーフードを食べる人が非常に多いんですよ。カニとかが好きな人も多いのです。食事とあわせるとしても日本酒ともフィットするのではないかなと思っています。

みなさんが想像するインド料理、ナンとかは北インドのデリーとかになりますが、ムンバイは比較的ノンベジタリアンが多くシーフードを食べるので、そのあたりは組み合わせとしては持っていきやすいかなと思っています。

先ほど、インドには日本食レストランが少ないと言いましたが、「なんちゃって日本食屋」は増えてきているんですよ。いわゆる「フュージョン・アジア料理」と呼ばれる、カリフォルニアロールとか、ベトナム料理とタイ料理が混ざったようなお店とか、その中にてんぷらとお寿司のメニューがあるようなお店。これは若者を中心に、しかも若者の中でも比較的所得の高い人たちに人気があります。

ムンバイは非常に物価が高くて、金融機関などで働いている20代の若者は、海外のワインを毎日のように飲み屋に行って飲んでいます。そういう方々に対しては、新しいものを比較的受け入れやすいかなと考えており、そのあたりにリーチしていくような形をまずは考えています。

 

■Liquor Japan プロジェクトの今後の展望

WAOJELiquor Japanプロジェクトの今後の展望について教えてください。

柴田インドという日本のお酒がほとんど流通していないマーケットにおいて、WAOJEのおかげで出会った西村さん、塩野さんとともに、何とか日本のお酒をインドの市場の認知を上げて、売上につながっていくような活動を引き続き力を入れていきたいなと持っています。

まずは、ひとつの蔵元さんとしっかりとやろうと進めていますが、今後はLiquor Japanを日本全国の酒造メーカーさんに使っていただき、そこを通じてインド市場にトライしていただけるようなプラットフォームになればいいなと考えております。

西村:Liquor Japanはゲートウェイの役割を果たすということが重要かなと思っており、インドと日本は距離的にも遠いですし、まだまだ交流も多くはないと感じています。だからこそ、Liquor Japanを通じてインドと日本それぞれでファンを作っていきたいということを目指しております。そのなかで、インドという人口が多い国で、ある程度市場を確保できるような形で貢献できればと考えております。

また、日本酒だけではなく、日本のウイスキーなども広めていけるのではないかと思っています。

≪後篇≫へ続く

企画・取材・原稿執筆:WAOJE広報委員会