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洪水、リスクマネジメント by弘畠夕子

タイ、バンコクよりサワディーカ!(こんにちは)。
10月下旬に差しかかり、しばらく前までは毎日のように降っていた
雨も、気づいたらピタッと降らなくなり、「雨季ももう終わったの
かな?今年はもう洪水は大丈夫だよね?」とタイ人と話している今
日この頃です。2011年秋にタイ国土の広範囲、そしてアユタヤ・バ
ンコク周辺の工業団地に甚大な被害を与えた大洪水。洪水時および
現在抱える問題について、災害被災時のリスクマネジメントについ
て参考になればと思い、ご紹介します。
■洪水により企業が直面した問題点
洪水の被害は場所によって差はあるものの、被災工場は約1~1.5カ
月の間、水深1.5~2.5mの深さで浸水しました。浸水後~水が引き~
工場復旧までの長期間(数カ月~1年以上)にわたって、被災企業に
とって深刻な問題となった事項は下記の通りです。
○洪水予報についての情報が全くなく、それが被害拡大を招いた
○工場の資産(書類・データ・設備・原料・仕掛品・在庫)の
                         消失・破損
○従業員の安全の確保(連絡が取れない従業員が続出)
○自宅が被災した従業員への見舞金、通勤困難な社員が就業する為
 のホテルの確保
○工場閉鎖・休業中の休業手当の問題
            (待機社員へは基本給の75%の支給義務)
○被災工場(長期休業・閉鎖)による従業員のリストラ
                    (解雇手当の支払義務)
○一時的に別の場所で生産活動する際の従業員の転勤
                    (従業員の同意が必要)
○被災工場が復旧するまで(数カ月~1年以上)の間の優秀な従業員
 の確保
○工場復旧作業の為に、日本から来タイする応援技術者のVISA・労働
 許可問題
○被災又は物流の寸断により、契約不履行を起こした場合の
                         損害賠償問題
○受取保険金は課税されるのか、被災従業員への貸付が外資規制法に
 抵触するのか、等
新聞ではサプライチェーンの寸断・企業の生産活動の停止等が取り上
げられていましたが、ニュースでは報道されないものの、企業が抱え
ていた問題は多くありました。長期的な問題として、最も深刻な問題
だったのは会社にとって重要な人材の確保です。特に復旧までの長期
間待機していた従業員が、生産再開した時に戻って来てくれるのか、
人材不足が深刻なタイでは工場の死活問題でした。被災企業の多くが
、洪水の危険性が少ない場所への工場移転を検討したものの、ほとん
ど同じ場所で工場を再開したのは優秀な人材確保が大きな要因だった
と報告が出ています。
■災害時に備えたリスクマネジメント
洪水のような不測の災害・事態が起こった場合、即断即決してすぐに
対応が必要な緊急対策、そして長期的な展望を持って対応する長期的
対策の二つに大別されます。日本の震災でも同様でしたが、前者の緊
急対策については事前の準備の有無で、経営者の力量だけに頼ること
なく、初動の迅速さ・被害の最小化に大きな差がでます。具体的には
、緊急時の連絡網、不測の事態が起こった時の初動についての各自の
役割・責任分担です。
今回、労働者を多く抱える被災工場は、従業員全員の安否確認に2週
間かかり、工場の被災で閉鎖・休業を余儀なくされたものの、それを
従業員へ伝達するのに非常に苦労した話を聞いています。休業手続き
を完了までは会社は100%の給与を支払いますし、休業手続として
その旨を従業員全員に告知する必要がありました。
今回の洪水は、工業団地が浸水する直前まで「工業団地は浸水しない
」と伝えられ、警報が出た時には時遅し…と言う状態で、多くの工場
は資産の移動が間に合わず被害が最小化できなかった事情があります
。が、その短い時間で各従業員が効率的に動き、必要なポンプ等の資
材を調達し、工業団地が浸水しても工場が浸水しなかった工場もあり
ます。
大きな組織の話ですが、銀行は地震等に被災した場合、初動は誰が何
を責任を持つのか、その次の対策はどんな作業があり、それらを誰が
行うのか、すべて漏れなく決められているそうです。一般企業でも経
営者が災害時の問題点・対応策をシュミレーションし、特に初動と各
幹部の責任分担を明確にしておくだけで、有事に備えたリスクマネジ
メントになるのではないかと考えます。
また、サプライチェーンの寸断リスクヘッジとして、被災後工場を複
数の拠点に建設した会社もあります。これは事前の対応策としても有
効です。今回の洪水でも、被災前に倉庫の一部を別の場所に移す等の
事前対応を行った工場はありました。
昔の話ですが、SARSがシンガポールで猛威をふるった時期、シンガポ
ールに統括本部を置いていた多国籍企業は、基幹部署を3つのチーム
に分け、一時的に異なる3つの場所で業務を行い、統括する部門長は
一番SARSの影響が少ないであろう郊外のオフィスで業務を行う、とい
う対策を取っている会社がありました。甚大な被害リスクがある場合
の事前対応は、費用と業務の非効率化を考慮しながらも、必要な場合
もあると考えられます。
■洪水後の損害保険および政府の対策
私が仕事で関わっていたある日系大手の損保会社は、被災した日系企
業の復旧を迅速に行う為、当初保険金の確定および支払を最短の数カ
月で終える予定でいました。しかしながら、そううまくは行きません
でした。個人・企業が有事に備えて保険に加入するように、保険会社
も今回の様な有事に備えて「再保険会社」(欧米系の会社)へ保険を
かけています。
保険金の確定に必要とされる手続き(被災規模によりますが通常は膨
大な資料が必要)を簡略化した手続きでは再保険会社が納得せず保険
金を払いませんので、結局は保険申請手続は通常と同様のものが要求
され、1年たった今でも多くの被災企業の保険金は確定していません
(但し、一部の確定部分に関しては内金が支払済み)。
保険金の確定は今年末まではかかると考えられています。
今回の洪水で保険会社が支払う保険金は、通常タイ全土で支払われる
年間保険金の約20年分と試算されており、膨大な被害額の影響でに多
くの再保険会社がタイから撤収し、現在、新規および更新の場合には
洪水には保険が掛けられない、もしくは微々たる保証のみ受けられる
保険加入になっています。
この状況を是正するため、タイ政府が再保険会社に代わる災害保険基
金を設立し、以前のレベルではないものの、被害額の最大30%補償さ
れる保険が可能になりましたが、基金の規模は十分ではなく、保険掛
け金の負担増もありますので、保険だけではなく、現在タイ政府が進
めている長期的な治水対策との抱き合わせで、リスクを最小化する方
法で対策が行われています。
また、日本のJICAはタイ洪水予測システム(英語)を開発し、インタ
ーネットで公開するなど、洪水対策のインフラが少しずつ整備されつ
つある状況です。 
弘畠夕子
タイ王国和僑会幹事 会計担当
ProMission Co., Ltd. 代表取締役
紹介ページ:https://waoje.net/db/bangkok/?p=789